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東京地方裁判所 昭和27年(ヨ)4012号 決定 1952年4月14日

債権者 小島康平 外一名

債務者 学校法人共立薬科大学

主文

債務者は債権者小島康平に対し、金七万千四百四十二円を、債権者益子安に対し金六万八千三百九十七円を仮に支払え。

理由

一、債権者両名は「債務者は昭和二十六年九月以降本案判決確定に至るまで、債権者小島康平に対し一ケ月金一万一千五百二十円の割合による金員を債権者益子安に対し一ケ月金一万九百二十円の割合による金員を支払はねばならない。」との裁判を求めた。

二、疏明によれば、債務者学校法人共立薬科大学は、以前は財団法人共立女子薬学専門学校と称し、共立女子薬学専門学校及び昭和二十四年四月以降はこれに併せて、共立薬科大学を設置経営してきたが、私立学校法の施行にともない、組織を変更して学校法人となり昭和二十六年三月十四日その旨の登記を了し、同年四月以降は共立女子薬学専門学校を廃止し、教育基本法及び学校教育法に従い、薬学教育を施す学校を設置するという目的達成のため、現在共立薬科大学のみを設置経営しているものであるが、債権者小島康平は昭和二十三年四月共立女子薬学専門学校の講師として採用され同年十月同校教授となり、昭和二十四年四月一日共立女子薬科大学の図書館長を委嘱され、昭和二十五年十月同大学助教授を兼任し、昭和二十六年四月一日期間二年の約定のもとに共立薬科大学の助教授に採用され債権者益子安は昭和二十四年四月共立薬科大学の講師、昭和二十五年十月同大学助教授となり、昭和二十六年四月一日期間二年との約定のもとに共立薬科大学の助教授に採用され、勤務中のところ、債務者が昭和二十六年七月六日発送翌七日到達の書面をもつて右債権者両名を解任する旨の意思表示をしたが、この意思表示は期間の定めのある雇傭契約を解除しうるための要件である已むをえざる事由にもとずいてなされたものでなかつたことを一応認め得る。従つて、右解雇の意思表示は無効にして他に右雇傭関係を終了せしめる事情の認められない本件においては、債権者両名と債務者との間には従前の雇傭関係が存続しているものといわざるをえないのであるが、更に疏明によれば債務者が前記解雇の意思表示をした当時債権者小島の給料は一ケ月金一万一千五百二十円(税込)債権者益子の給料は同じく一ケ月金一万九百二十円(税込)にして、債務者が毎月十日にその月分の給料を支給する約定であつたこと、債務者が前記解雇の意思表示をした以後、債権者両名の労務の提供を拒み、その限において債権者らの雇傭契約上の債務の履行が一応不能となり、また債務者が昭和二十六年九月分以降の給料を支払つていないため現在債権者両名が債務者に対し右給料額の割合により昭和二十六年九月以降翌二十七年三月までの七ケ月分の俸給支払請求権を有すること及び右と異る特別の事情のない限り今後毎月右同額の俸給請求権を取得し得ることが一応疏明されている。

三、よつて本件仮処分の必要性について考えるに疏明によれば債務者小島が母弟妹と四人家族で未だ独身であり生活費及び妹の学資は右同人と弟が出し、住居は母名義のものがあり、軽井沢に山荘があること、債務者益子が天神堂という薬局を開設していることが認められるがこのように債務者等が幾分の資力を有するからといつて同人等が債務者との雇傭関係を終了したものと取扱われその給料の支払をうけなくてもなお生活に窮せずその他の損害にも耐えうるものと認めるには、疏明が不十分であるというほかなく、更に当裁判所が昭和二十六年十一月二十四日に昭和二十六年(ヨ)第四〇四二号仮処分事件の決定において、債務者が昭和二十六年七月六日に債権者両名に対してなした解雇の意思表示の効力を停止して、債務者に従前の雇傭関係が存続すると同様な取扱を任意に履行するよう期待したにもかかわらず、債務者にはこれを任意に履行する意思のないことが疏明されているから、債権者等の本件仮処分申請は既に、前記俸給請求権が発生しその履行期の到来した昭和二十六年九月以降現在迄の前記金額の割合による給料については仮処分の必要あるものと言うべく、而して疏甲第二号によつて認められる税金月額、即ち債権者小島について金千三百十四円債権者益子について金千百四十九円宛を一応控除した残額が債権者らの毎月現実に取得し使用し得べき金額にして、これと同金額の支払を受ければ一応仮処分の必要を充すものと考えられ、また既に発生し履行期の到来したことの明なる昭和二十六年九月以降昭和二十七年三月末まで右割合による金額の支払を受ければ一応仮処分の必要を充すものと考えられるので右割合による金額即ち、債権者小島について金七万千四百四十二円、債権者益子について金六万八千三百九十七円については債権者等に直ちに支払をうくべき仮の地位を定める仮処分をなす必要あるものと言うべきである。今後履行期の到来する、その余の部分については債務者が任意に支払をなす可能性の少ないこと、或いは今後債権者等が更に裁判手続によつてその支払を求める必要の起り得ることなどが疏明により、推察できるとはいえ、なお本件の疏明の範囲においては、本案の裁判の確定を待たずして所謂断行の仮処分により、それと同様な保護をいま直ちに与える必要のあることを認めるに足りない。

よつて債権者等の本件仮処分申請は債務者に対して債権者小島が金七万千四百四十二円同益子が金六万八千三百九十七円の各支払を求める範囲においてその必要性が存するものと認め、主文の通り決定する。

(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 西迪雄)

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